2017年4月23日日曜日

多和田葉子『雲をつかむ話』

一つを掴み切る事が出来ない。掴もうとすれば消える。ちぎれる。ばらばらにわかれる。途切れる。飛散する。言葉から言葉へ。思ってもみない方向に飛ぶ。迂回する。大きく曲がる。思っていた所には辿り着かない。
 漠然とした関心。普通ではないと言う事に対する。逸脱した事をするものに対する。逸脱した事をするものへの処遇に対する。どうしても到達出来ないと言う感覚。言葉に。漠然としたその心地に。物それ自体はここに確かにあるのだけれど。馴染む事が出来ないと言う感覚。あてはめる事が出来ないと言う感覚。掴みあぐねたまま危うげに彷徨う。
 何と鋭敏な。何と七面倒な。何とスレスレな。多和田葉子を読むたび世界が広がって行く…と言うより、この世界が注視すべきものばかりである事を知る。と言うより、注視すべきものばかりでキリがない事を思い知る。物語から出てまた物語へ。



雲をつかむ話
雲をつかむ話
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多和田 葉子
講談社
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