善も悪も持つ人間達の平穏に、悪にせよ善にせよ、完全にそれのみである存在が入り込む事が、いかに厄介か。自分もいたように思う。ただ悪半と善半に振り回されるだけの人間達の中に。語り手の少年を一人ぼっちにする側に。完全さへの熱狂などとうになく、とうに失い。子爵が再び一人になる事で取り戻し得た平凡さと、平凡なその後、平凡な思慮深さに結局満足してしまう側に。善も、悪も、知恵も、断片的にしか持たぬまま生きる、哀しくて滑稽な人間達の中に。
善のみ、悪のみである不完全な人間の極端で厄介な完全さと共に、善悪どちらをも備える完全な人間の不完全さをも嫌と言うほど思い知らされるのだけれど。矛盾や齟齬を見過ごし、諦め、飲み込み、順応する”完全”の世界に嘆きは確かに込み上げるのだけれど。少年と共に叫ぶには自分はもう、自分に、自分の平穏に慣れ過ぎてしまっていた。