2017年6月25日日曜日

久生十蘭『魔都』

魔都、何と恐ろしくて妖しくて魅惑的な空間。陰謀を隠すにはうってつけの薄暗さを備え。謎を秘めたまま紛れ込むにはうってつけの多様さを備え。いとも簡単に人を狂わせ、虜にし、その生き死にさえ気紛れに操る。短くとも濃密な、あまりにも濃密な時間に、多くの転落を、栄華を、失望を見た。一筋縄ではいかぬ混沌具合、けれど語り手はあくまでも軽やかに、華麗に、狂騒を最後まで先導し続けるのだから凄まじい。
美も醜も善も悪も区別なく混在し、それぞれがバラバラに疾走する感じ。皆(魔都に潜み、魔都に棲息している、と言った風な人々)精一杯活躍し、暗躍し、出来る限り頑張るのだけれども、誰も抜きん出て来ない感じ。惜しい所まで行く人もいるのだけれど、語り手には到底敵わない感じ。語り手と言う絶対的な支配者に、結局は手綱を握られている感じ。魔都の怖さを示し尽くそうとする語り手に。結局は皆、利用されているに過ぎない感じ。物凄くいい。
何と瀟洒な。とてつもない牽引力。凄まじい。久生十蘭は凄まじい。久生十蘭が魔術師である事。それも稀代の魔術師である事。読み始めてすぐに思い出す。そして再び、更に思い知る。気がつけば術中にはまっている。



魔都 (創元推理文庫)
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久生 十蘭
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