2017年6月30日金曜日

津島佑子『大いなる夢よ、光よ』

未だ時間の流れの内にある自分と、不意にその流れより離れ、いなくなってしまったあの子。取り戻す為。彼女は始めから歩み直す。自らの時間を。自らが取り逃がし続けてしまっていた時間を。今なお取り逃がし続けている事を嘆きながら。時間が流れ行く事を免れ得ぬままの身で。
どうすればよかったのか。どうすれば失わずに済んだのか。自身の時間を、思い出を辿り、彼女は何とか過ちを見つけ出そうとする。忘れていた事の多さに、思いがけず浮かび上がって来た記憶の重要さに戸惑いつつ。もう二度と思い出したくもないような、遠い葛藤や寂しさとも今一度向き合いつつ。それは誰にも、ほかの誰にもどうする事も出来ない事。自らたどり着くほかない事。自ら歩み直し、見つけるほかない事。彼女でないものはただ、せめて目を逸らさずに見つめ続けるだけ。その言葉を追い続けるだけ。
けれど少なくとも、否定するべき過ちなど、どこにもなかったように自分は思う。彼女が歩み直した時間のどこにも。彼女はいつも、懸命に生きていて、自身の生を、懸命に選び続けていて、醜くても、愚かでも、愛おしむべき姿しか、なかったように思う。あの子を取り戻そうと彷徨い、或いは、あの子のいない時間を生きて行く為に苦しむ、今の姿をも含め。
自身の選択を肯定する事。その選択によって得た幸せを肯定する事。自身の時間を歩み直す、辛く、困難な試みの果てに。何もかもが、必要であった。彼女が再び自分を生き始める為には。何もかもが、必要であったように思う。その必要であった何もかもを、自分はせめてなぞり続けるだけ。



大いなる夢よ、光よ
大いなる夢よ、光よ
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津島 佑子
講談社
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