消え失せた言葉を、基準を。あまりにも遠いかつてを。胸中に隠し持ったまま、生き続けるのではないか、と。もう通用しないとしても。もう二度と使う事がないとしても。今となっては疑わしく、ひどく曖昧で、頼りないものであるとしても。馴染み過ぎたそれらを、完全には捨ててしまう事が出来ない為に。ふにゃふにゃになってしまう事も、立ち止まる事も出来ず、悲しいまま、やり切れぬまま、呪いのように生き続ける事になるのではないか、と。
多和田 葉子
講談社 (2017-08-09)
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