2017年9月1日金曜日

多田智満子『神々の指紋 ギリシア神話逍遥』

ヘレニスト、大いに翔ける…と言った印象。その栄華を、その美しさを、その壮大さを、その不確かさを物語る魅惑の痕跡…そこかしこ、無数に、多様な姿で散在する痕跡の内より幾つか、選び、掬い上げ、つぶさに触れては。優雅に、それも至極楽しそうに舞う。
熱を、喜びを帯びた言葉の、調べの、快い事。広々と開放的な、見渡す限りどこまでも、遠く、遥か彼方まで続く、悠久の広がりにも似た、その詩の。快い事。此方もまた語り手の至福に導かれ、いずれも容易に、国を越え、時代を越え、自在に飛翔し、四方よりかの世界を眺め、その深遠さ、その豊饒さを感じる、贅沢な時を過ごす。

その内より溢れ出る知識の量、愛の量。膨大な事。どれだけ息づいているのだろうか、と思う。どれだけ深いのだろうか、と思う。最早多田智満子自身が、その言葉自体が魅惑と化している。繰り返し、繰り返し、楽しみ、飛翔したのだろう、と思う。



神々の指紋―ギリシア神話逍遥 (平凡社ライブラリー)
多田 智満子
平凡社
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