陽の光の届かぬ、暗がりに棲む者達。湿り、濁り、じめじめと黴臭く。汚れ、腐り、崩れかけ、滞る暗がりに。蔑まれ、疎まれ、遠ざけられ、潜むよう、暗がりに棲む者達の。果て行く様。密やかに育ち、爛熟したその果て。どろりと重く、艶やかな香りを放ち、闇に溶け行く様。引きずり込まれる。持って行かれてしまう。
本を閉じてもしばらく、自分は自分を見失ったまま。どこにいるのかさえも曖昧。目の前も、思考も、靄がかかったまま。奪われてしまったまま。厚く、広く、濃い余韻。やはり沼のようだと感じる。皆川博子の世界は、底の見えぬ、沼のよう。一度沈んでしまえば、沈む快楽を知ってしまえば、浮上する事は恐ろしく難しい。
皆川 博子
集英社
売り上げランキング: 58,759