2017年10月2日月曜日

吉田知子『千年往来』

目まぐるしく往き来してすぐに酔う。それもスムーズな往来ではなく、ブツッ、ブツッ、と一回一回途切れる、暗転する形での往来であるから余計に。見るべきもの、追うべきものをこちらが決め切る前、その時間に馴染み切る前に突然、ブッツリと切り替わるため、ひどく不安になる。変に酔う。
しかしどこを見ても不穏、不吉。人の生き死にの様相を、汚れたまま、澱んだまま、血塗れのまま、泥のついたまま、ふてぶてしいまま、呆気ないまま、遣る瀬無いまま、無様なまま、悲しいまま、剥き出しの姿のまま、明け透けに物語る断片の数々。現れてはねばねばとまとわりついて咀嚼し難い類の不快感の塊を残し、忽然と闇に消える。それがぐるぐると、足早に、静けさに至るまで、延々続く。延々回り続ける。
まるで嵐の只中にでもいたかのよう。とんでもなく疲弊する。過ぎ去って今は、空しいが穏やか。前後不覚になりたい欲求は十分満たされた。あんなにも明け透けで剥き出しで煩わしい所、しかもその連続、円環、もう戻りたくない。もう静けさの方がいい。自覚していないだけで、所詮自分も似たような環の中に存在しているのだろうし。



千年往来
千年往来
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吉田 知子
新潮社
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