2017年10月13日金曜日

金井美恵子『重箱のすみ』

最高であった。自らの愛するものを、そのよさを、魅力を、如何に甘美であり、如何に快いかを物語る際の、金井美恵子の言葉の素晴らしさ…しなやかで、艶やかで、強く、手強く、緻密であり、繊細であり、読む度にうっとりとしてしまう。重く、気怠く、色濃く、厚く。いつにも増して官能的で。凄みさえ帯び。読むと言う至福、立ちのぼって来るものの鮮烈さにめまい。…反対に、悪口や嫌いや、如何にだめであるかを思い知らせる文章はいつも通り最高に面白いので笑う。金井美恵子を読み始めた時分はそれこそ恐々笑っていたけれど、今はもう、平気で笑う。

まず表紙から楽しい。表紙からわくわくする一冊。たくさん詰まっていて、一つ取り出せばほかにも色々ついて来て、ただ一つだけで終わる事なんてなくて、キリがなくなってしまったりもして、その一つ一つが自分には蠱惑的に見えるのだけれども、それがすべて金井美恵子であるという嬉しさ。 

〈書いている時のあの楽しさ〉…〈あの、めちゃくちゃに甘美な楽しさと疲労と困惑とためらいと絶望と胸のむかつきと息苦しさ、貧しい豊かさと豊かな貧しさが混りあう水の中から浮びあがり、それなのにひどくのどがかわいていて、かわきをいやすためには、もっともっと言葉が必要なのだという全身的な渇望の疲労困憊のはてに、愛する小説と愛する映画を飲みつくしたいと欲望しながら読んだり見たりする渇きを含めた、書くことの快楽と疲労〉…他の何よりも自分には金井美恵子の言葉が気持ちよい。ただ読み続け、ひたすらに読み続け、全身で享受する。
彼女自身もまた読む事の喜びを知る読み手であるが故に、読み手として読む事の喜びを知る自分自身さえ、自らの言葉で、自らが書き終えた小説で楽しませる事が出来る、自らを再び、書くと言う行為の不毛さや甘美さへと向かわせる事が出来る書き手であるが故に、金井美恵子の言葉は気持ちいいのだと実感する。



重箱のすみ
重箱のすみ
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金井 美恵子
講談社
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