くらくらとする。何て厄介な。何て魅惑的な。森茉莉と言う人。境目を見せぬ人。境目を持たぬ人。言葉にする事で、夢を、美を、自分自身の世界を、何もかもを、本物にしてしまう人。深く、妖しく、豊艶な、本物にしてしまう人。陶酔の相貌と、冷静な陰影の。いずれか一方だけが本当なのではなく、いずれもが本当であると言う。途方もなく狡い人。
そして自分にとって森茉莉は常に、年齢不詳の人である事に気付く。まずそもそも"この時の森茉莉はいくつか"なんて、考えた事もなかったように思う。これはまだ室生犀星が生きていた頃のもの、富岡多恵子達との交流があった頃のもの、程度の事はぼんやりと考えるけれど、それもあまり意味のない事であるように思う。並べて見る事の不必要さ。結局は沢山ある森茉莉の内の一つ、と言う捉え方をしている為。
室生朝子の「森茉莉さんのこと」がよかった。楽しい交流。実り多く、豊かで、賑やかで。森茉莉を、ちゃんと見ていて。その凄さを、ちゃんと見抜いていて。何だか嬉しくなる。「黄金の針」よりも好き。「黄金の針」は読んだ後すぐに、森茉莉自身の「室生犀星という男」と矢川澄子の「犀星と茉莉」を読みたくなる。『幽界森娘異聞』を読みたくなる。