2017年11月23日木曜日

矢川澄子『おにいちゃん 回想の澁澤龍彦』

矢川澄子は何を残したかったのだろうか、と思う。断片。何か、明確な、一つの形に組み立てる事の出来ない断片。無理矢理組み合わせてみた所で、何物にもなる事のない。白く、あやふやで、曖昧で、酷く不安定で。何物にもなり得ぬ、不完全の。けれど未だ、仄かに温かい。断片。
とても回りくどい。他にもっと、あったのではないか、と思う。遣り様も。言葉にすべき事も。どうやってもこうなってしまう、と言うような、もどかしい回りくどさ。堪えていたのだろうか、と思う。溢れ出そうになる何かを。あの逡巡。懸命に堰き止めていたのだろうか、と思う。
厳しい自己検閲。これは言葉にしていいと、打ち明けてしまっていいと、自分自身に許せる事の少なさ。汚してしまう事を嫌い、醜さを拒み、溢れ出ようとするもの達を押しとどめたまま、言葉に出来ぬ事は多く、それでも、書かずにはいられなかったのだろうか、と思う。不完全であっても。明晰な形に至れなくても。少年とともにあった時間の、すべてを昇華する為に。試みずにはいられなかったのだろうか、と思う。 すべてを昇華し。彼女は、戻りたかったのだろうか、と思う。
ずっとわからない。



おにいちゃん―回想の澁澤龍彦
矢川 澄子
筑摩書房
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