2018年1月4日木曜日

河野多惠子『思いがけないこと』

追求も、詮索もしない。思い馳せるけれど、決して解き明かそうとはしない。ずっと不可思議な事であるまま、思いがけぬ事であるまま。決して深入りしようとはしない。そう言った不可思議な事が、思いがけない事が、平然と起こり得る世界の深遠さをなぞるように。淡々と語り。ただ静かな驚きを、密やかな感嘆を残して行くだけ。薄明かりの中、ぼんやりとしか見えはしない。それ故に妖しい。最後まで明かされる事のないものであるが故に、後を引く。
河野多惠子の言葉はいつも美しい。緩みなく、隙もなく、綺麗に整っていて。河野多惠子は言葉を残して行く、といつも思う。暗く、冷たく、澄んだ静謐に。言葉を。謎を、秘事を、異常を。そっと、残して行く。冴え渡るよう響くそれは硬質の音。いつも美しい。ほのかに艶やかなその余韻ごと愛する。



思いがけないこと
思いがけないこと
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河野 多恵子
新潮社
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