2018年3月30日金曜日

幸田文『季節のかたみ』

‪いつ何度読んでも幸田文の文章はいい。また惚れ直す。幾度となく惚れ直す。この滞りのなさ、淀みのなさ、誤魔化しのなさ、手抜かりのなさ。爽やかで、涼やかで、綺麗で、小気味好い。簡単に捨ててしまわない。それきりにしない。自らが持つもの、学んで来たもの、身につけて来たもの。しっかりと活かす。
ちゃんと見つめて、ちゃんと確かめて。よく知ろうとする。よくわかろうとする。わからなければそのわからなさを。合わなければその合わなさを。ちゃんと言葉にする。会得したならば、鈍らせてしまう事なく磨き続ける。無駄にする事なく使う。身についた事を、身についた言葉で、自らの持つ言葉で、表現する。いつも好ましい。
そのままにしない事の凄さ。きちんとおさめ、たたみ、しまい、納得し、また使う事の凄さ。うまくおさめる事が出来なくても、そのまま投げ出してしまうのではなく、何故出来ないのか、その出来なさ、おさめられなさと向き合う、向き合わずにはいられない、真面目さが好き。そつのなさが好き。緩みのなさが好き。
今回は特に「活気」が気になる。幸田文の文章のよさ、魅力がつまっているな、と。まっぴらご免党、ちょんつくばい、やあがれ、きゃあがれ、ザマアミロ…〈悪い言葉づかいには、どういうものか鮮度があります。〉、そして〈馬鹿らしいでしょう、待つわけがないのですから。〉〈こう思ってみると、泥氏への挨拶というのは、むずかしいものです。〉に笑う。
"ふっくりした心だて"であるとか、猫の目を"りんどうの花のような色"と言う辺りだとかも。大変いい。出てくる言葉の一つ一つが、その身の内に根付いているもの、よく親しみ、長年使い込んで来た為に、その身に染み付いているものであるような気がして。



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幸田 文
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