2018年3月4日日曜日

『ガラスの鐘の下で アナイス・ニン作品集』

触り難く、近寄り難く、侵し難い。あまりにも繊細で、綺麗で、不穏で、複雑で、重層的で。怖い。平気でいる事さえ難しい。あまりにも鮮やか過ぎる。透明過ぎる。深遠過ぎる。何もかもを見透しているかのよう。何もかもを知っているかのよう。痛みを、苦しみを、葛藤を、悦楽を、あまりにも鮮やかに映し出し過ぎる。猶予などない。隠れる場所などない。掴めるものすらない。無影響でいる事など出来るはずもない。
流動的なもの。瞬間的なもの。絶えず変わり行く様さえ。途切れる事なく続いて行く様さえ。手のつけようのなさ、救いようのなさと言ったものでさえ。手抜かりなく、妥協する事なく捉える。表現する。既に慣れ親しんだものを語るような、その綿密さ。それこそすべてを、ひとまずは受け入れて来たのではないか、と思う。ひとまずは受け入れ、己が身を以って感じ、探り、具に調べ、こだわり、幾度となく試み、研磨し、作り変え、自らのものにして来たのではないか、と思う。
あの日記が未だに尾を引いている。原素材。日記こそが。小説は原素材からの副産物、落穂ひろいに過ぎないと言う言葉の意味を思い知る。



ガラスの鐘の下で―アナイス・ニン作品集
アナイス ニン
響文社
売り上げランキング: 864,028