2019年3月19日火曜日

山尾悠子『ラピスラズリ』

何度読んでも、読み尽くす事が出来ない。読む度その膨大さに驚く。その精巧さ、綿密である事に驚く。壮大な、一つの、装置であると言う感覚。既に完成し、言葉によって、構築され終えている、一つの。美しく、精密な、物語であり、装置であると言う感覚。始まりも、終わりも、再生さえも、その内に組み込まれ、完結している…幾つもの生を、死を、理を、その内部に織り込まれ、自ら動き出すよう、滅び、移ろい、自ら循環するよう、言葉によって、作り上げられた、一つの。気高く、荘厳な、装置であり、世界そのものであると言う感覚。
その始まりの、その微睡みの、不穏である事、密やかである事。その冬の、その夜の、冷酷である事、暗く、深く、美しい事。その兆しの、その眠りの、緩慢である事、甘やかである事。醜い事、見苦しい事。その滅びの、その死の、抗い難い事、恐ろしい事。その終わりの、その再生の、静かである事、強く、眩く、ほのかに温かである事。物語は多くを語り、けれどそれだけではない。姿形を持たぬもの達の気配、息遣い。確かにいる。暗がりに潜み、確かに存在している。どこまでもつきまとう、それだけではないと言う感覚。物語はまだ多くを秘めていると言う感覚。言葉によって語られる事のない、姿形を与えられる事のない、それらをも含む、すべてを網羅している物語の凄み。その煌めきに惹かれる。その気迫、紛れもなく本物である事を示す物語の煌めきの、その凄まじさに。圧倒される。



ラピスラズリ (ちくま文庫)
山尾 悠子
筑摩書房
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