2018年4月15日日曜日

佐藤亜紀『吸血鬼』

苦く緩慢な生を示唆する薄闇と、その結末の素晴らしさよ。すべてを打ち砕かれてしまったかのような。この上なく残酷なやり方で、恐ろしく荒っぽく蠱惑的で、非情なやり方で。否応がなしにならされてしまった後のような。ひとしきり疾駆し、し終えた後の、諦めの先の、穏やかな闇の甘美さよ…!
 今回もよすぎて腹立たしい。いつもいつもいつも心憎いし小憎い。幕開けから雰囲気抜群、舞台もこの上なく整っていて。作りもとびきり重厚で綿密で。この暗さ、この妖しさ、この途上感、一致してなさ、剥き出しと装飾の、雑然とした感じ。何もないわけがない。超いい。思惑や計画の錯綜具合。自らの役目をまっとうする、役割通り勤しみ、くすぶり、暗躍し、計画し、画策し、抗い、引きこもり、夢想し、出し抜き、裏切り、失敗し、落ちて行き、惨めに、美しく、当然の如く、殉死する、アクの強い登場人物たち。その詰めの甘さであるとか、悲しいまともさ、内心の動揺や葛藤、計算の狂うさま、ものすっごく些細なことに足を引っ張られて自分でビックリしてしまうさまであるとか!役割通りみな不完全で不恰好で、意外と泥臭くて熱くて、どうしようもなく滑稽で間抜けで。はかりしれなくて。超いい。不思議と愛おしい。みな自らの役目を、自らである事をまっとうする。滑らかに、軽やかにまっとうさせられる。そしてそれが最上であると言う華麗さ。そうするのが物語上の最上であると言う華麗さ。
あとはあまりにも鋭くて的確で鮮やかな悪口や皮肉や罵詈雑言の数々がやはり素晴らしい。本当に元も子もない、そうであるとしかいいようのない言い方をする。見せつけ方をする。一番効くやつ。いちいちよすぎる。


吸血鬼
吸血鬼
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佐藤 亜紀
講談社
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