我が恐ろしき、愛おしきウラミズモ。万歳。自分にとっても大層居心地がいい、大層都合がいい。自分の今が、この生き辛さごと壊されて行く。痛快だ。どうしたって痛快だ。自分は確かに、痛快さを感じている。けれど当然、それだけでは全然ない。それだけであるはずがない。快いだけであるはずがない。そう言う事ではない。笙野頼子は超越している。
ずっと恐ろしいし、後ろ暗い。不信感は終始変わる事なく付きまとう。快くても、ただ喜んでいる訳にはいかない。ただ溺れる訳にはいかない。かつての痛みや憤りが癒えようとも、疑念や恐れは消えようがない。肯定する事にさえ葛藤が伴う。逆に言えば、それでも、自分はそこにいる事を、そこの居心地のよさや痛快さの方を、結局は選んでしまうのだろう、と言う事ではあるのだけれども。
笙野頼子は凄いと思う。もうとっくに超えている。そんな所に笙野頼子はいない。とどまっているはずがない。笙野頼子がそんな所におさまっているはずがなかった。先にいる。笙野頼子は超越している。終盤特にたまらない。静かで、穏やかで、怖いぐらいに澄んでいて、清浄で、張り詰めていて。その中に、書き手の言葉だけが響く。水のように迸り、溢れ出し、強く、激しく、迫って来る。とてもとても快い。悲しくて、決意に満ちていて、辿り着いていて。登りつめて行くよう。超えて行くかのよう。
笙野 頼子
新潮社
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