2018年7月30日月曜日

村田喜代子『百年佳約』

生きている十蔵も死んでいる百婆も大変だ。生きるのも死ぬのも大変だ。張家と龍窯に連なる何十人の子供たちの百年佳約。わらわらわらわら、沢山いて沢山あって大変だ。次から次へと大変だ。全然うまくいかない。そうそう思惑通りにはいかない。そうそう画策した通りにはいかない。どんどんはみ出す。どんどん逸れて行く。みんなどんどん身勝手に動き回る。
理屈と道理と慣習と感情と願望と勢いのぶつかり合い。親の言い分、子の言い分。生者の言い分、死者の願い。どれも必死だから厄介だ。それぞれが別方向の切実さを以ってぶつかり合うものだから厄介だ。更に当然、互いを愛する気持ちはあるのだから凄まじい。全然綺麗にまとまらない。大混乱、大騒動のその様相、冷や冷やするし、気が気でない。見守る百婆もたまったものではないと思う。けれど愛おしい。愚かで、滑稽で、真剣で、頑固で、勝手で、可笑しくて、愛おしくて、面白い。全然綺麗ではないし、全然予定通りではないのだけれど、何かこうピッタリと、意外な形で、思わぬ形で丁度よくまとまってしまったりもする辺りも含め。たまらなく愛おしい。

〈神とは何であろうか。〉〈生きていたときは、通力を持った何か特別なものかと考えていたが〉〈力なくして、ただ愛の想いのみ溢れる霊魂にすぎなかった。〉〈それならば神とは、目のようなものではないか…〉〈永遠に人間界を見つめ続ける尽きぬまなざしのようなものではあるまいか。〉
続いて行く事の、増えて行く事の大変さよ。保ち続ける事の、守り続ける事の難しさよ。生者も死者も苦しい。そうそう簡単にはいかない。


百年佳約
百年佳約
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村田 喜代子
講談社
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