〈「予定」はともかく、なにしろ、「仕事」がいちおうあるから、つまっていて「未来」と「計画」はどうでもいいや、という気持ちで眠りにつき、その一日も、いつもと同じように終わった。〉〈終わったとはいっても、もちろん充実感と共にそう思ったわけではなく、なんとなく、いつもと同じように眠りについた、ということなのだ。〉
最高である。いつも通り最高である。相変わらず最高である。自分はこの世界、とてもよく知っている。気恥ずかしくなるほどに、よく知っている。見知った世界。馴染み過ぎて、浸かり過ぎて、平素改めて考える事もないぐらいによく知っている世界。心当たり満載。
金井美恵子を読むと、読み終えた時、もう金井美恵子しか読みたくないと言う、僅かに鬱陶しくて、憂鬱で、とても幸せな気持ちになる。自分は金井美恵子の言葉によって、もっとうんざりしたいし、うっとりしたいし、気恥ずかしい思いをしたいし、笑い出したいし、喜びたいし、満たされたいのだ。これ以上ないくらいに。自分が今いる場所…退屈で、ありふれていて、自分はもう、半ば飽きかけていて、すっかり諦めてしまっていて、けれどそう悪いばかりのものでもないと時には思う事もある、そこの。気怠さや煩わしさ、鬱陶しさであるとか、くだらなさと言ったものを。金井美恵子の言葉によって、嫌という程に思い知らされる事で。
いかに疲れるものであるか、噛み合わなかったり、通じなかったりして疲れるような事がいかに多いか、いかにイライラするものであるか、いかに面倒なものであるかを。改めて体験する事で。そう言った瞬間を、幾度となく生き直す事で。噴き出したり、そのおかしさを噛み締めたりしたいのだ。
金井 美恵子
朝日新聞社
売り上げランキング: 138,007
朝日新聞社
売り上げランキング: 138,007