2018年12月22日土曜日

アントニオ・タブッキ『遠い水平線』

ひどく不安な気持ちになる。その境目のなさ。境目の見えなさ。明確なものであると思っていたのに。確かで、埋めようのない、隔たりのようなものであると思っていたのに。まるでそうではなかった。淡く、不明瞭に、徐々に曖昧になって行き、彷徨い込んでいる。いつよりそうか。わからないほど、徐々に、自然に。失われて行く。わかって行くと共に。繋げていけば行くほど、自覚すればするほどに。失われて行く。境目。隔たり。本当は最初からわかっていたのではないかと思う。その不確さなど。
見知らぬものであるはずなのに、決して見知らぬものではないそれを。自分ではない人間のものであるはずなのに、確かに自分のものであるそれを。或いはそれが、決して見知らぬものではない事を、確かに自分のものである事を。思い出して行くかのよう。取り戻して行くかのよう。その生を辿る事で。揺蕩うように、ゆっくりと遡るように、その断片を繋ぎ合わせる事で。

それまで明確な区切りを持つものであると信じていた境目が、ひどく曖昧なものである事を知る不穏さ。本当はいつからかぼんやりとわかっていたその曖昧さを、思い出すと言う落ち着かなさ…。静かに、けれど確かに響き、過ぎ去るように、遠ざかるように、淡い余韻を残して流れ行く言葉が美しい。



遠い水平線
遠い水平線
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