見知らぬものであるはずなのに、決して見知らぬものではないそれを。自分ではない人間のものであるはずなのに、確かに自分のものであるそれを。或いはそれが、決して見知らぬものではない事を、確かに自分のものである事を。思い出して行くかのよう。取り戻して行くかのよう。その生を辿る事で。揺蕩うように、ゆっくりと遡るように、その断片を繋ぎ合わせる事で。
それまで明確な区切りを持つものであると信じていた境目が、ひどく曖昧なものである事を知る不穏さ。本当はいつからかぼんやりとわかっていたその曖昧さを、思い出すと言う落ち着かなさ…。静かに、けれど確かに響き、過ぎ去るように、遠ざかるように、淡い余韻を残して流れ行く言葉が美しい。
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アントニオ タブッキ アントニオ・タブッキ
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