2018年12月30日日曜日

尾崎翠『第七官界彷徨』

なんと新しい事よ。いつ読んでも新しい。なんと独特のものである事よ。自分は尾崎翠を読むたび戸惑う。その感覚の、その言葉の独特さよ。その状態の、その場面の特殊さよ。ここにしかない感覚であり、言葉であり、状態であり、場面。なんと言えばいいのだろう、その距離の、人物と、彼等より出でる言葉の、語り手と、語り手の用いる言葉の、その距離感の不思議さよ。
何かから、自らがよくないと感じる何かから脱却しようと試みている人が用いる言葉であるように感じる。何かを、形の定まらぬ何かを掴もうと模索し続けている人が用いる言葉と言うか。降りて行く人の用いる言葉。照れのような気配を感じる一方、控え目ではあるのだけれど、自信のようなものをも感じる不思議。
未だに未知。ここだけ何か違う。いつ読んでもどこか新しい尾崎翠の世界。読むたびに自分は驚く。ここでしか出会えぬものの多さよ。言葉にせよ、感覚にせよ。平板な調子で、ひどく途方もない事を試みているような次第。永遠に途上であるかのように思える明かされなさ、到達しなさ。とても好き。


第七官界彷徨 (河出文庫)
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尾崎 翠
河出書房新社
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