2019年1月6日日曜日

金井美恵子『恋愛太平記 1』

あー面白い。しばしば噴き出す。と言うか、自分の中にもあるわー、知っているわー、よく知っているわー、と思うような事ばかり。その感覚にせよ言葉にせよ情景にせよ。その鬱陶しさにせよ煩わしさにせよ鈍感さにせよ分かり合えなさにせよ気の合わなさにせよもどかしさにせよ伝わらなさにせよ一致しなさにせよ気怠さにせよ面倒さにせよ不毛さにせよわからなさにせよ迂闊さにせよ。身に覚えのある、体感した事のある、生きた記憶のあるもの達ばかり。当て擦りのように思い知らされて笑う。自分がそれを持っている、知っている、平素身近にある、と言う事を、強く強く思い知らされ、思い知る事が気恥ずかしくて、楽しくて笑う。まったくもって優しくない笑い。母親や祖母や伯母たちや夫や義母と言った人々と自分の間に、確かにある、確かにあったような類のものであり事共。
ひどく身近にある幸福感であり不安であり憤りであり苛立ちであり、繊細さであり柔らかさであり光沢感であり存在感であり過剰さであり安っぽさであり高級さでありケチくささであり銘柄であり選択であり組み合わせであり、配置。鮮やかに立ち上って来るそれらに、自らの心当たりを容赦なく引き出されると言う、手強い愉悦。自分が見て来たものの多さ、見て来なかったものの多さ。拘って来たものの多さ、拘って来なかったものの多さ…自分が如何に敏感であり、鈍感であったか。などの事をも、同時に思い知る次第。

本当にもう生き直しているとしか言いようがない。読む事で生き直しているとしか、自分もまたうんざりして、疲れて、苛立って、選んで、思い出して、記憶して、洗濯して、掃除して、献立を考えて、料理して、片付けて、億劫がったり、ひどく現実的で実際的で細々とした日々のあれこれに関してとりとめなく悩んだりしながら、生きているとしか。


恋愛太平記 1 (集英社文庫)
金井 美恵子
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