費やして、消費して、浪費して、それも繰り返し。熱中して、没頭して、嫌になって、考えてみようとして、思いあぐねて、それもとめどなく。本当にもう、自らもまた体感して生きていたとしか、自ら見聞きしていたとしか言いようがない。自らの内にある記憶や情景や感覚を引き出されたりしながら、生き直していた、としか。退屈して、疲れて、驚いて、呆れて、納得して、馬鹿にして、吹き出して、充足して。噂話を、秘密を、皮肉を、当て擦りを、しゃべって、聞いて、想像して、連想して、横道にそれて。そう言ったすべてを、生きていると言う事、そのものであるような事共の、そのすべてを、記憶して、忘れて。尽きる事なく増えて行くそれらを、積み重ねて、埋もれさせて、思い出して、繰り返して、うんざりしたり、苛立ったり、喜んだり、幸せを感じたりしながら、自分もまた生き直していた、としか。
辛辣で、饒舌で、豊かで、沢山あって、繊細で、とめどなくて、素晴らしかった。思い出すかのような、再現するかのような、どこまでも続いている事を、繋がっている事を、隙間のない事を、それが途切れる事のないものである事を、確かめるような綿密さ。着て、脱いで、履いて、身に付けて、セットして、化粧をして、買って、作って、食べて、眠って、夢を見て、起きて、その繰り返しである事を、それが如何に重要で、当然であるかを、思い知らせるような膨大さ。本当に本当に、素晴らしかった。
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手紙を書こうと思った。長く長く、とりとめがなくて、密やかで、真剣で、ありふれていて、滑稽で、熱っぽくて、気恥ずかしい、読んでいる最中、自分が如何に幸福であったかを言葉にした手紙を。〈細部に淫することで生じてしまう小説の物語的機能の失調状態の楽しさ〉…至福の元となるもの。〈どこにでもいて誰の友達や知りあいであっても不思議ではない四人の姉妹とその母親の十年間の生活〉の、何と愛おしかった事か…楽しかった事か…読んでいて、何と幸せであった事か…!!
1、2共に素晴らしかった。金井美恵子の本は、どれも素晴らしいのだけれども。特に、殊更に。このような本であるのだ。自分が読みたいと求めるのは。読みたいと欲するのは。この本を読みたかったのだ。このような多幸感を得るために、自分は読んでいるのだ。自分はやはり、金井美恵子を読むために生きているのだ、と確信する。