今まで見えなかったものが、見えるようになった時の、物事の新しい見方や選択肢を得た時の、新鮮な喜び。それらの事ならば確かに知っていると、自分が今まで信じて疑わずにいたもの達の、見知らぬ姿を目撃した瞬間の、驚きと戸惑い。多和田葉子を読むと何故落ち着かない気持ちになるのか、よくわかる。
その感覚と試みの面白さ。そんな所にもあるのか、と言う気持ち。まだまだあるのか、と言う気持ち。今までなにもないと思っていた場所に、思わぬ楽しさの可能性を見つけた気持ち。限定してしまう事の、納めてしまう事の、縛られてしまう事のつまらなさ。もっと不安にさせて欲しい。もっとそわそわとしたい。広げて欲しい、開いて欲しい。
疑ってみて、比べてみて、分解してみて、解体してみて、組み合わせてみて、繋げてみて、想像してみて、飛ばしてみて。意味やらしがらみやらから重荷やらから言葉を解放する。多和田葉子によって意味や正誤や善し悪しや枠組みから解き放たれた言葉を読む事は新鮮で不可思議で、不安で楽しい。どこまで行くのだろう。多和田葉子の行こうとしている所に、自分も連れて行ってもらいたい気持ち。
多和田 葉子
岩波書店
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