2019年2月15日金曜日

ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』

見慣れた世界での事かと思いきや、少し違う。ならば見知らぬ世界での事かと思いきや、それも違う。ここでない事は確かなのだけれども、ここからそう遠い訳でもない模様。そう隔たれている訳でもない模様。知らないような、知っているような。似ているのだけれども、それではないような。それではないのだけれども、何となく身近に感じてしまうような…。
世界は果たして、途中から変わってしまったのか。初めからこの世界の事ではなかったのか。それすら判断出来ない。見慣れた世界から違う所へ、おさまりきらずにはみ出してしまったのか、飛び出してしまったのか。感情だけをそのままの形で引き連れて。だから自分は気がつかなかったのか。何の疑問も抱かなかったのか。明らかに自分の知っている痛みや不快さが、そこにはあったために。 
ほくそ笑んでいる感じのやり口ではない。からかっている感じではない。存外に真面目な顔をしている。真面目な顔をして、意外な所に連れて行く。真面目な顔をして、軽やかに、鮮やかに飛んで行く。自在ではあるけれど、決して荒唐無稽ではない。ちゃんとしているように見える。しっかりしているように見える。夢に似た明かされなさ、唐突さだけれども、その唐突さや明かされなさには、何か見えない決まり事があるようにも思える。則るべき公式のルールがあるようにさえ思える。そう思えるほどに、とりあえず信じられると思えるほどに、神妙で真面目そうな口ぶり。決まっている口ぶり。余地のない口ぶり。思わせぶりだけれども誠実そう。不安感がない。妙な説得力、不可思議な強固さがある。ケリー・リンクはやっぱりいかしている。



スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫FT)
ケリー リンク
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