アンジェラ・カーター『血染めの部屋』

狭間にいる者達。狭間で惑う者達。恐れている。けれど同時に、惹かれてもいる。死に近い愉悦の。自らの知らぬ、その愉悦の。おぞましく、冒瀆的な誘惑の。その甘美さに。自らに破滅を、堕落をもたらすはずの、その甘美さに。戸惑っている。けれど同時に、心かき乱されてもいる。危うい。寸前にいるものの危うさ。変わり行くものの、目覚め行くものの危うい美しさばかりがある。酷く官能的で、酷く肉感的で、嫌悪すら覚えるほどに、艶かしい物語群。
その行為。その儀式。その欲望。獣じみている。獣じみて行く。獣と化して行く。人としての、装いを、表皮を、剥がされて行く姿の、剥き出しとなり、露わとなる姿の、何と美しく、欲深く、淫らである事か。そして目覚め、理解し、抗う姿の、決意する姿の、何と気高く、激しく、綺麗である事か。恐ろしくて、おぞましくて、妖しくて、勇ましい。愚かしくて、惨めで、残酷で、鮮烈。不快さすら覚えるほどに、蠱惑的な物語群。
予兆としての赤。証としての赤。輝き、流れ、滴り落ち、染める、赤。鮮やかで、密やかで、血腥い。赤がつきまとう物語群。赤を秘する物語群。

血染めの部屋―大人のための幻想童話

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アンジェラ カーター
筑摩書房
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