2020年1月3日金曜日

皆川博子『鳥少年』

その昏さ、愛おしい歪み。もっと歪めと思う。より暗く、より醜く。より甘やかに。嫌悪を伴う羨望。どうしようもなく不快で、どうしようもなく惹かれる。もっと深く、底を、奥底を見たいと思う。共に落ちて行きたいと思う。現には救いがなく、深みにのみ、喜びはある。
闇の方が。歪みの方が。よほど愛おしい。無力な現よりも。よほど慕わしい。溜まっている。滞っている。潜んでいる。蠢いている。苦しみも。痛みも。虚しさも。倦怠も。諦めも。絶望も。欲望も。愛憎も。濃く、重く、立ち込めている。そのまま沈み込むように。壊れて行くほかない。崩れて行くほかない。
物語はいずれも密やかで、閉鎖的で。閉ざされている。黒々と、鬱々と、沈澱しており、幻想へのみ、溶けて行ける。奥底へのみ、降りて行ける。倦怠と欲望と、残酷さの果て。愉悦と絶望と、誘惑の果て。

やはり沼であると思う。数多の魅惑が潜む。数多の狂気と、魔が棲息する。沼。甘やかに、凄惨に、密やかに、佇み、広がり、誘う。みな自ら沈み込むのだ。


鳥少年 (創元推理文庫)
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皆川 博子
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