報われないし、白い目で見られるし、相当嫌な思い、恥ずかしい思いもする。ああ、見ていられない。もどかしい。ひりつく。ぞわぞわする。何でわからないんだろうと思う。何でそんな事をするんだろうと思う。通じない、きっと通じない。直しようがない。戻しようがない。信じ込んでいる人の前では、黙するほかないし、無力だなあと思う。
その状況を是正しようとする優しさが痛い。家族は決して壊れていないのだ。壊れていないから、辛いのだ。外からの正しい優しさなど、入る余地もないぐらい、壊れていないから、辛いのだ。どちらにも行けそうな、危うくて、微妙な所にいる主人公が切ない。おれてっきりかっぱかなにかだと思った、に救われる。
今作もそうだけれども、今村夏子作品には、自分の嫌な思い出と言うか、恥の記憶と言うか、恥をかいたり、恥をかかされたり、報われなくて惨めな思いをしたり、悪意や残忍さを向けられたりした記憶と繋がるような場面がしばしばあって、そう言った意味でも、ひりつく。怒る風でもなく、ましてや笑いにするのでもなく、極めて平易に、淡々と言うものだから、逃げられなくて、そのままの形で思い出してしまって、余計にううっ、となる。