2020年1月3日金曜日

泉鏡花『おばけずき 鏡花怪異小品集』

おばけ、あやかし、魔のもの、怪異。狭間で視る。狭間で出会う。黄昏時、逢魔時、東雲と言った、明と暗のあわい…。或いは現と夢の、日常と非日常のあわい…。確かにいる、確かにある、潜んでいる、棲んでいる。その曖昧さ、妖しさの内にて感じる。
雨や風や雷、天災…その混乱の、疲労の、恐怖の最中、人々が見たもの。人々に見えたもの。常とは異なる夜闇にいたもの。然もありなん。いるであろうもの。見えるであろうもの。そこかしこ、今も昔も…。 
非常にいい。怖い、恐ろしい、と言うよりかは綺麗であったり、妖しかったり、不可思議であったり、可笑しかったり、艶っぽかったりして、面白い。語り口の洒脱で豊饒な事。魅せる魅せる。聴かせる聴かせる。静かに鋭く、煌めくように浮かび上がって来る。
のびやかな筆致。何というか、ひどく滑らかで、楽しそうでさえある。"喜々として異界に遊ぶ"…まさしく、と思う。その凄みと艶。ユーモアと典雅さ。随筆に小説に、そのあわいのような小品、味わい多彩。



おばけずき 鏡花怪異小品集 (平凡社ライブラリー)
泉 鏡花
平凡社 (2012-06-08)
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