2020年1月25日土曜日

多和田葉子『百年の散歩』

目まぐるしく気にする。歩けば歩くだけ、気にする。歩けば歩くだけ、気になるもの、気になる事はある。次々ある。山ほどある。それぞれにある。目まぐるしく気にし、引っかかり、変換し、変換し損ね、漂う。目まぐるしく注視し、掴み、掴みあぐね、飲み込み損ね、漂う。
音、響き、色、毛色、形、形のなさ、温度、手触り、剛柔…目まぐるしく感じる。違和感、不快感、不安、不可解さ、心地よさ、安心感…目まぐるしく捉える。捉え切れぬ事ごと。目まぐるしく連想する。キリなく。切れ間なく。目まぐるしく期待し、はぐらかされ、逸らされ、漂う。辿り着けぬぐらい、沢山ある。

〈意味のない時間、あの人に何をしていたのと訊かれても答えられないような時間を流してみたい。どこにも行かないことを宣言したい。わたしは一生どこにも行きつかないことを誓います!〉…最高であると思う。どこにも行きつかない。尽きない。果てしない。何ものとも言えぬ時間。何にもなり得ぬ、心地よい時間…。
鋭敏に、敏感に、見続け、聞き続け、触れ続け、気になり続け、気にし続け、解体したり、繋げたり、しあぐねたりして、歩き続けている。大勢ありすぎる。どこへ行っても。あまりにもありすぎる。あまりにも沈殿しているし、溜まっているし、積もっているし、残っているし、これからも当然、増え続ける、増え続けている。あの人はずっと、不在のまま。歩き続け、漂い続け、たどり着かない。たどり着きようがない。 通りより通りへ、円環の内を、円環を出で、外へ、更に次へ。



百年の散歩 (新潮文庫)
百年の散歩 (新潮文庫)
posted with amazlet at 20.01.25
多和田 葉子
新潮社 (2019-12-25)
売り上げランキング: 8,975