2020年2月12日水曜日

泉鏡花『春昼・春昼後刻』

とろとろと、温く、柔らかく、穏やかに流れる夢のような。甘く、快く、抗い難い誘惑、逆らう事なく身を委ね、微睡みつつ、夢幻との間、境目を探ろうともせず、漂いつつ、いつしか見ている。夢のような。眩さであり、奇妙さであり、美しさ…。
不気味で、信じ難く、だからこそ、鮮烈に感じ、酷く蠱惑的な。その一幕。夢幻に属する邂逅の、共鳴の、その一幕。そこで見たものの凄まじさ、疑いようのなさ。確信。宿命への、避けられぬ事への。不穏を孕み、影を含み、不可思議で、驚異的で、けれど光景はあくまでも緩やかで、穏やかで、明るいまま。歪みもせず、濁りもせず、物語は結ばれる。成就するよう、あくまでも光の中、揺蕩うまま、物語は至る。



春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)
泉 鏡花
岩波書店
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