2020年2月12日水曜日

泉鏡花『外科室・海城発電 他五篇』

扇情的なまでに。官能的なまでに。無残で、不条理で。凄惨な妖と死。振り切れる瞬間。昏く、惨たらしく。振り切れ、超え、極まる瞬間。思わず息を飲む。その緩みのなさ、中庸の入り込む余地のなさ。みな、際にある。生半可なもののなさ、いなさ。とうに決した自らのまま。曲げる事なく、狼狽る事なく。みな、際にいる。高潔に、美しく、或いは愚かしく、醜悪に。
自らを決し、黙したまま、それを貫こうとする者達の強さ、凄み。誰にも変えられはしない。この世の安寧など、彼等には何の価値もない。ましてやこの世の是非になど。その重さを、当然わかってはいても。動かされるはずもない。折れず、目を逸らさず、倒れてしまわず。いっそ狂い。貫く。だからこそ、美は生じ得る。凄惨さの内にさえ。悲愴さの内にさえ。魔は宿り得る。だからこそ、惹かれる。忘れ難く、鮮烈に刻み込まれる。

際にいるよりほかない者達。現において、自らの在る場所を選ぶ術を持たず、不自由さの内に囚われ続けている者達。弱く、痛ましく。強く、手強く。妖しい。凄惨なまでに、美しい。



外科室・海城発電 他5篇 (岩波文庫)
泉 鏡花
岩波書店
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