2020年2月12日水曜日

泉鏡花『草迷宮』

すぐさま魅了される。惹かれるまま、痛切に心惹かれるまま、魔の方へ、美の方へ、懐かしく、愛おしく、妖しい、魅惑の方へ。深入りするほかない。すぐさま迷い込み、深入りするほか。昏く、寂しく、澱み、異界めいたそこ。明らかにおかしい。容易に人を狂わせ、翻弄し、排除する。怪異の類。妖の類。怪奇の類。明らかに人の属する領域ではない。踏み込めば現は遠く、人は確かさを、主導権を失う。
区切りを、順序を持たぬそこ。現では決して辿り着き得ぬ所と、繋がっている。過去へ、高みへ、夢幻へと、この世ならざる場所へと、通じている。聖も邪も、善も悪も超越した。人ならざるもの達の領域。恐ろしく美しい。その内にて、その果てにて、とどまることで、目の当たりにした光景の。途方もない、美しさ。この世の、今の、現のどこにも、存在せず、存在し得ぬ類の。信じ難く、あまりにも尊く、手出し出来ぬ類の。恐れをも、悲しみをも、畏怖をも、安堵をも内包した、陶酔であり、眠り。囚われる。夢幻に、その甘美さに。

明らかに自分は今、人ならざるもの達の領域にいるのだ、と言う感覚。招かれるまま、連れて来られたのだ、と言う。そこで出会う妖の、美の凄まじさ…!ぼうっとなる。圧倒される。自分の目の当たりにしたその美が、明らかに人や現などを超越した類のものであると言う確信。


草迷宮 (岩波文庫)
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泉 鏡花
岩波書店
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