あらゆる魅惑のイメージ…夢、幻、微睡に属する、あらゆる誘惑の甘美さ。覚めぬ事の、出られぬ事の、連れ去られる事の堪らなさ。高まり、期待し、興奮し、震え、息を吐く事の。熱く、気怠く、物憂げで、陰鬱で、酷く重厚な、その甘やかさ。立ち上って来る。それ自体がまた魅惑めいたものとして。
何故書くのか。書く事、書くと言う行為、書き続けるであろうと言う、その避け難さ、不可避性について。その不毛さ、抗い難く、悪夢めいている事。その始まりの遠さ、到達し得ぬ事。その果てのなさ、尽きる事のなさについて。その欲望の、熱情の、繊細で、獰猛である事。直に触れる。直に感じる。直に思い知ると言う苦痛。直に思い知らされると言う快楽。強烈な体験。
金井美恵子を語る事はやはり、自分にとっての、読む事を語る事だ。読む事の苦しみと喜びを。読む事の愉悦と嫌悪を。あらゆる快不快を含み、膨大で、豊饒で、連なり、連なり続け、手強く、終わりがなく、厄介な、唯一無二の至福を。
金井 美恵子
中央公論社
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