2020年3月2日月曜日

金井美恵子『添寝の悪夢 午睡の夢』

迷宮めいた広がり。無限めいた連なり。言葉。書かれたもの。自らが書いたもの。小説。絵。画。自らの内にあるもの。光景。記憶。夢。悪夢とその様相。すべて、その領域に属するすべて。あらゆる快不快、好悪、美醜、難解さ、感動。語られ、克明に、綿密に語られ。満ちている。溜まっている。鮮烈に、濃密に、感じ、体験し、囚われたかのように、彷徨う。
あらゆる魅惑のイメージ…夢、幻、微睡に属する、あらゆる誘惑の甘美さ。覚めぬ事の、出られぬ事の、連れ去られる事の堪らなさ。高まり、期待し、興奮し、震え、息を吐く事の。熱く、気怠く、物憂げで、陰鬱で、酷く重厚な、その甘やかさ。立ち上って来る。それ自体がまた魅惑めいたものとして。

何故書くのか。書く事、書くと言う行為、書き続けるであろうと言う、その避け難さ、不可避性について。その不毛さ、抗い難く、悪夢めいている事。その始まりの遠さ、到達し得ぬ事。その果てのなさ、尽きる事のなさについて。その欲望の、熱情の、繊細で、獰猛である事。直に触れる。直に感じる。直に思い知ると言う苦痛。直に思い知らされると言う快楽。強烈な体験。
金井美恵子を語る事はやはり、自分にとっての、読む事を語る事だ。読む事の苦しみと喜びを。読む事の愉悦と嫌悪を。あらゆる快不快を含み、膨大で、豊饒で、連なり、連なり続け、手強く、終わりがなく、厄介な、唯一無二の至福を。



添寝の悪夢午睡の夢 (1979年) (中公文庫)
金井 美恵子
中央公論社
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