2022年7月21日木曜日

『武田花写真集 猫・陽のあたる場所』

花さんは紛れ込む。交わるのではなく、踏み込むのではなく、いつだってふわっと、紛れ込む。なんにも左右しない。特別にしてしまわない。その距離感や関わり方や視線の、静かさと長閑さが好きだ。花さんは猫を撮るために出かけて行く。〈猫だけでなく、猫のまわりの、猫に似合った風景〉を撮るために出かけて行く。路地裏や、廃屋に、墓地や、荒寺に、〈商店街の裏通り〉の〈空地〉に、〈薄暗い参道の隅〉の、〈飲み屋の提灯の下〉に、或いは店内の、〈入口に近い丸椅子の上〉に、〈家と家の間の軒下の陽だまり〉に、猫はいて、こちらとは無関係に、これまでも、これからも、そのようにして、居続けるのだと言った風。猫は例えば〈壊れた植木鉢や木箱といっしょくたになって〉寝ていたりする。何の瞬間でもなく、花さんの撮る猫はただ猫のまま、他でもなく猫のまま、ただ佇んでいたり、伸びをしていたり、目を細めていたり、こちらを見ていたりして、それがまたこの上なく猫猫しくて、とてもいいのだ。