「陶古の女人」
陶器に女人の美しさを見出し、女人を愛でるかの如く扱い、日々じっとりと眺める。陶器の声を聞き、陶器に語りかけるその姿は、女人との声なき対話を楽しんでいるかのよう。言葉から窺える拘り方は驚くほど真摯であり、恋愛における健気さにも、どこか似たものを感じる。
「生涯の垣根」
犀星のお庭大好きっぷりがよくわかる一編。好きな人間、そして好きなものを見る時の犀星の視線はやはり、彼が愛してやまない美人と言うもの、美しい女を讃える時のそれに似ている。率直だが滋味豊かな物言い、何だか妙に可笑しくて、また微笑ましい。
『天馬の脚』
陶器同様、情痴にも似た愛情を向ける庭作りをはじめ、扱う話題のすべてを熱く語り尽くす。愛する庭の草木や石の幻に取り憑かれ、庭を考えること自体に苦痛を感じるようになっても、体に染み付いた習慣により、気がつくと庭に立っていると言う。最早それは、女人を愛する以上の、痴情。人物評、特に芥川評が良く、両者の深い友情を見た。
室生犀星入門書にしては諸々濃すぎる『庭をつくる人』、女人に対する切実かつ執拗な憧憬と思慕の念を詰め込んだ『女ひと』もまた愉しい。
番外編
芥川龍之介による室生犀星評
『出来上った人』
文章自体は極めて短いが、とてつもなく面白い。純度も志も高い、犀星の揺るぎないオタクぶりを、仲のいい友人として、親しみを込めて、指摘しているように感じた。
…指摘と言うべきか、感心と言うべきか、揶揄と言うべきか…いずれにせよ仲良しであることは間違いない。とてもいい、人となり評。