自らにはその形さえ掴めぬような、痛みの重さ、複雑さを知る、早熟な友との交流によって、徐々に甘えを帯びた幼さは薄れ、主人公の心は繊細に、静かに、作り変えられて行く。成長はときに、言いようのない寂しさをもたらすもの。未知の感情が残す翳り。避けられない別離に広がる、切なくも澄み切った哀感。言葉は遠き日々の、どこか懐かしい苦味を呼び覚まし、胸中を淡い哀しみで、満たして行く。
顧みることのない時間の中で、自分自身もまた、平然と見過ごしてきた、多くの卑劣さを伴う感情。『光抱く友よ』は、痛みと共に身を潜めたそれらとの、予期せぬ再会を果たすことが出来る作品であるように思う。近しいものたちと触れ合うことで、主人公の心中に生じるそれら。思いを克明に象る言葉たちによってすくい上げられたそれらとの、不意の邂逅に、浮かび上がる思いの後ろ暗さに、心は波立つ。混ざり合う後悔と懐古の念、胸の奥底にまで沈んで行く苦味。だが、少女たちの尊き一瞬を描き出す、怜悧で、それでいてひたむきな言葉には、若さに寄り添うすべて、もどかしさも、遣る瀬無い不安も、そのすべてを認め、見守る、かつて自らも少女であったものの、控え目な、慈しみが込められている。葛藤や苦しみさえ、瑞々しく、健気に光る。その清らかさ、静謐に漂うその寂寥感、高樹のぶ子作品の中で、最も愛おしく、最も好ましい輝き。