何一つ醜態を見せることなく多くを越えた先、豊かさの内に在るものたちの、底知れぬ悠久を思わせる穏やかさ。下界に息づくいくつもの滞りとは無縁の。毒は猥雑な色合いを持たぬために、甘く、恐ろしいほどに悠然と満ち、それぞれが耽る交歓と、饗宴が奏でる豊艶なそれの、澱みのなさを知らしめる。
自分が作品に選ばれていないと言う思いは常にある。しかし、それでも倉橋由美子作品を読まずにはいられない。埋まることのない隔たりにこそ、惹かれるのか。俗物のまま高みを覗き見る行為に伴う、品のない楽しさ故にか。多くの濁り、滞りとは無縁の、豊かな悠久の内に在るものへの、叶わぬ憧憬故か。いずれにせよ、執拗に読み続けていた結果、今ではもう、なにか別の生き物を見遣るかのような、此方側への冷酷さ、無関心さには最早、屈辱的な痛みとともに、不気味に湧き上がる類の喜びをも、煽られるようになってしまった。