2016年4月28日木曜日

倉橋由美子『城の中の城』+桂子さんシリーズ雑感

佳人、才子ばかり集う典雅さ。世俗的な矮小さの内にとどまるもののいない、醜さや劣悪さと言った類のものとはまるで縁のない世界。敵が頼るのは流麗なその景観にそぐわぬもの。彼等にとっては身遠く、本来関わるはずのないもの。曰く、病。癒えるか否か。戦争は真剣、けれどそれもまた見苦しく歪む事はない。当然。
桂子さんの揺るぎなさたるや。堅牢、堅固、強靭…などと象っては無粋か。幽玄、婉麗。まず硬さが不要なのだ。守りを固める必要がない。そもそもおいそれと触る事が出来ぬ場所にあるのだし。その肥沃さ故、備える必要もない。物事の大体は愉しむ事が出来るのだし。それはもう、負ける訳がない。


桂子さん達の世界=桃源郷、と言うイメージがある。よく魅惑的な誘いに導かれるがまま訪れたり辿り着いたりする場所に対して、彼等もそう言った象り方をするけれど、自分にとってはまず彼等のいるそこ自体が桃源郷に値する場所。優雅の極み。手の届かぬ高みにある。俗世を縛る理の及ばぬ高みにある。
自分はいつも、〜さんと言うこの”さん”に、誰にも、なにものにも崩される事のない(決して崩れる事のない)鷹揚さみたいなものを感じる。余裕と言うべきか。絶対的な安心感と言うべきか。驕りとはまるで違うもの。その鷹揚さを前にしては、自分など、従順になるほかないと思う。まったく敵わないと思う。



城の中の城
城の中の城
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倉橋 由美子
新潮社
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