賛美と皮肉。陶酔と嫌悪。はっきりとしている。はっきりと区別されている。混ざり合わないものとして。わかりきったこととして。夢幻に捧げられる言葉と、現実を知らしめるための言葉。幻想は現実を侵食するものとしてではなく、例えば求むるべき真実の現れとして描かれる。現実は最早硬直し、鈍り、幻想を以ってさえそう簡単に切り裂けるものではないのだ。形ばかり望んでみたところで、そう簡単に行けるものではないのだ。真に幻想を、その美しさを受け入れるためには、狂うほかない。境目を超えるには、幸福に狂うほかない。
いずれもとても皮肉めいていた。皮肉の根深さ。嫌悪の強さそのままであるかのように、賛美するべきもの以外に対してはとても皮肉めいていた。現実は常につきまとう。混ざり合うのではなく、踏み外しようのない、肉体や今と言うものの所在として、常につきまとう。けれどそれでも、あの賛美の言葉の輝かしさよ、小説は夢幻によって、夢幻の与える霊感によってこそ書きはじめられるのだと思える。